自分の作品を、二度、蹴る


私が、まだデザイン科の学生だった頃、
一年上のJ先輩が、制作大手のN社に内定した。
面接に持って行った作品群――大量だった――を、
ある日、私たち後輩に見せてくれた。


J先輩が作品の説明をしている間に、ふとしたはずみで、
私の足が、その先輩の作品のひとつに当たってしまった。


「あっ、すいません」


即座に、その先輩は、大声で、こう言った。


「こんなもん、どうだっていいんだよ!」


その先輩は、そう言った後、その作品を、二度、蹴った。
三回、作り直したという自分の作品を、二度、蹴った。


口に出してこそ言わなかったのだが、J先輩が
言わんとすることは痛いほど分かった。
J先輩は、「そんなものよりも、人と人の繋がりがの方が大事だ」
と言いたかったのだと思う。
J先輩が大手制作会社に内定した所以であった。


私は、未だに、自分の作品を蹴れないでいる――
未熟者である。


人気blogランキングへ
ブログランキング・にほんブログ村へ